第37回吉川英治文学新人賞受賞作「Aではない君と」、今回はこちらを紹介。
タイトルだけでは内容がよくわからず、この小説の良さが伝わりにくいが、読んでみれば絶対に何かを感じ取ることができるはず。そんな一冊。
基本情報
発売日:2017年7月14日
ページ数:464ページ
出版社:講談社
著者:薬丸岳
本作は佐藤浩市さん、天海祐希さんらが演じて映像化・テレビドラマ化されていた。テレビ東京の開局55周年特別企画だったようだ。
原作を読んでから改めてドラマを見るのも味わい深そうだ。
どんなお話なのか
14歳の中学生男子がある日、友人を殺害した罪で逮捕されてしまう。
父親と母親は離婚しており、14歳の息子は母親に引き取られて生活をしていた。
息子が逮捕されたと警察から連絡を受けた父親は、息子が殺人を犯したということを信じることができず息子を問いただすが、息子は何も喋らない。
本当に息子が殺人を犯したのか?なぜ息子は何もしゃべらないのか?両親の離婚は何か関係があるのか?
登場人物それぞれの心情がリアルに表現されており、感情移入すること間違いなし。読み応え抜群な内容である。
感想
中学生といえば多感な時期で、家族との接し方もこれまでと変わってきたり、学校でトラブルに巻き込まれたりすることもあるだろう。
感情の起伏を上手く抑えることができなかったり、精神的には未熟な部分が多い。
両親の離婚や学校でのいじめといったショックの大きい出来事に見舞われると、深い傷を負ってしまい、トラウマになってしまう可能性がある。
本作では読者に対してそういった示唆を与えてくれる内容になっていて、二人の息子がいる私も深く考えさせられた。
未熟な息子達を普段からしっかり見てあげて、根気強く丁寧に接してあげなくてはと思わされた。
私自身の人生ではあるものの、私の行動によって家族の人生も変えてしまいかねないということを考えると、私一人だけの人生ではないのである。
タイトルの「Aではない君と」の「A」とは、逮捕されたあとにメディア等に呼ばれる「少年A」の「A」だ。
逮捕されてしまった少年Aとしてではなく、一人の息子として対峙することの重要性、父と子の絆の深さを確認できる、本作はそんなハートフルな内容でもある。
セリフからの学び
「物事のよし悪しとは別に、子供がどうしてそんなことをしたのかを考えるのが親だ。」
物事の表面ではなくその本質を見る姿勢は、子育てだけでなくビジネスや全ての活動に対して当てはまる考えである。子育てとはそういった本気のぶつかり合いなんだな。子供はまだ理解できないだろうから、親が根気強くなる必要がある。
「お父さんが人生の最後に考えるのは、翼のことだ」
物語の終盤で父親が言った一言。
翼とは殺人の容疑で逮捕されてしまう14歳の中学生だ。父親は息子の裁判のために奔走し、被害者の親族に会い、会社での対応も難しくなっていく。息子の逮捕をきっかけに父親の人生も大きく動き、怒涛の日々を過ごすことになるのだが、最終的に言ったこの言葉に父としての想いが詰まっている。
何があっても息子への愛は変わらない。であるならば、もっと早くからそうしてあげるべきだった、という父親の反省の声も聞こえてきそうだ。小説から学ぶことは多いにある。
「簡単ではないかもしれませんが、誰もがどちらの立場にもなる可能性を持っています。だから両方の立場を想像することは、職業にかかわらず必要ではないかと思いますよ」
翼の弁護士が翼の父に対して言った言葉だ。
確かにその通り。加害者にも被害者にもなるリスクは誰にだってある。ビジネスシーンや友人や家族との会話においても、相手を慮る(おもんぱかる)姿勢は大事だ。自分は当然意識しつつ、息子にもその重要性を教えていきたい。
まとめ
未成年、特に中高生のトラブルは日常茶飯事である。些細なことでキレてしまう子供(いや、それは子供だけではないか?)に対して、身近にいる大人がいかに接してあげるか。特に親の役割は非常に重要だということを今回改めて思い知ることができた。
親は息子が生まれてきた時は喜び、あふれんばかりの愛情を注いだはずだ。
しかし時の経過や日常のストレス、忙しさにいつしか初心を忘れてしまう。
そんな気持ちのちょっとした変化が子供の人生を狂わせてしまうのかもしれない。
自分を制御できなくなりそうな時は、初心を思い出すことを心がけたい。
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