今回は喜多川泰さんの「よくがんばりました」を紹介。
読みやすく、相変わらずの名言続出で、自己啓発小説として大変お勧めである。
基本情報
発売日:2022年9月22日
ページ数:200ページ
出版社:サンマーク出版
著者:喜多川泰
著者の喜多川泰さんは愛媛県西条市の出身。この小説の舞台も愛媛県西条市で、西条まつりという江戸時代から続く伝統的な祭りにおける「だんじり」が描かれている。
お馴染みの喜多川ワールドを楽しみつつ、日本の伝統・歴史の美しさを再認識する。そんな色々な味わい方が本書にはある。
あらすじ
主人公は石橋嘉人(いしばしよしと)。中学校の先生をしている50歳過ぎの男性。
ある日突然愛媛県警から電話があり、父である湊哲治が亡くなったという知らせを受ける。
嘉人は幼いころに母親に連れられて父・哲治の元から離れ、それから30年以上も哲治とは音信不通で生きてきた。
なぜそんな嘉人の元に急に警察から連絡が来たのか?父・哲治の身に一体何が起こったのか?
故郷の「だんじり」の歴史を紐解きながら、これまで知ることのなかった父・哲治の本当の想いを知ったとき、嘉人は一体何を思うのか?
読み進めるごとに明らかになる父と子の関係に、心が温まること間違いなし。
ネット社会の繋がり
愛媛県警から急に連絡が来た理由は、嘉人がネットに公開した授業の動画がきっかけだった。
このあたりのエピソードから、現代のネット社会における人との繋がり方を知ることができる。
思いがけない出会い。セレンディピティとも言えるかもしれない。
これまでの社会ではあり得ない出会いが、ネット社会では偶然あるいは必然とも言えるようになってきたということだ。
運命的な再会や、ビジネスチャンスにもめぐり合うことができるかもしれない。
時代の潮流に乗り遅れないためにも、ネット社会に進んで飛び込んでいく気概を持ちたい。
セリフからの学び
「つまり、人間の凄さっていうのは、すべての人が、その人の人生を懸命に生きているところにあると」
自分の人生を誰かのものと比較しても意味が無い。
なおかつ、誰かの人生を代わりに生きられるほど自分は強い人間ではない。
一人一人がそれぞれの苦しみと向き合いながら生きている。
そんなところに人間の「凄み」がある。
他人に誇れる人生とか、そんなことを考えても仕方ない。
目の前の今を一生懸命に過ごせばそれで良いということだ。
「自分が生まれ、生きてきたなかで、起こることすべてを受け入れて、誰にもその苦しみを理解してもらえないままに、ひとつの旅を終えた人に対して湧いてくる言葉は、嘉人のなかではひとつしかなかった。『よくがんばりました』」
生きることに不器用だった亡き父・哲治に対して言った嘉人の言葉。
生前は父と子は互いの愛情を素直に表現できず、理解し合えなかった。
しかし嘉人はようやく哲治の愛情に気が付くことができた。
この「よくがんばりました」という一言で哲治はどれだけ救われるかは計り知れない。
親子は身近すぎる存在だからか雑な対応をしてしまいがちである。
家族に直接想いを伝えられる価値を感じた。
まとめ
相変わらずの喜多川ワールドが広がりつつも、「だんじり」という日本固有の文化に触れることもできる、歴史+自己啓発+小説という三位一体型の作品だった。
そのような意味では、以前当ブログで紹介した「おあとがよろしいようで」は落語が舞台となっており、そちらも日本の伝統を上手く描いている作品だ。
そんなわけで喜多川氏は自己啓発の要素をふんだんに出しつつも、日本の良さを再認識させてくれるメイドインジャパンな小説家である。
ビジネス書と言えば小難しい洋書を手に取りたくなるかもしれない。しかし時には日本人として原点回帰させてくれる喜多川氏の小説は、まさに私には無くてはならないものとなっている。
自分のお気に入りの小説家に出会うのも読書の楽しみ方の一つなのかもしれない。
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